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東京地方裁判所 平成元年(特わ)2110号 判決 1990年6月12日

本店所在地

東京都千代田区神田鍛冶町三丁目七番地

株式会社

タマルエステート

本籍

栃木県栃木市本町六一三番地

住居

東京都世田谷区梅丘二丁目一七番一号

会社経営

福田博司

昭和一二年九月八日生

本籍

東京都港区虎ノ門五丁目九番地

住居

埼玉県上尾市大字小敷谷七七番地の一

西上尾第二団地三-一九-二〇八

無職

吉田邦弘

昭和一八年四月一七日生

本籍

東京都渋谷区代々木五丁目三一番

住居

東京都渋谷区代々木五丁目四二番四-三〇七号

会社役員

福田稔

昭和一八年二月一九日生

右株式会社タマルエステート、吉田邦弘に対する法人税法違反各被告事件並びに福田博司、福田稔に対する法人税法違反及び所得税法違反各被告事件について、当裁判所は、検察官渡辺咲子出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人株式会社タマルエステートを罰金三〇〇〇万円に、被告人福田博司を懲役二年一〇月及び罰金二億五〇〇〇万円に、被告人吉田邦弘を懲役一年に、被告人福田稔を懲役一年六月にそれぞれ処する。

被告人福田博司に対し、未決勾留日数中三〇日をその懲役刑に算入する。

被告人福田博司において、右罰金を完納することができないときは、金五〇万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

被告人吉田邦弘及び被告人福田稔に対し、この裁判確定の日から三年間それぞれの刑の執行を猶予する。

罪となるべき事実

被告人福田博司(以下、「被告人博司」という。)は、昭和五七年六月から東京都中央区京橋所在の中央信託銀行本店の不動産営業部次長の地位にあって、同本店における不動産取引仲介の業務を専ら行っており、その一方不動産の売買及び仲介を営業目的とした被告人株式会社タマルエステート(以下、「被告会社」という。)を経営し、実際上の経営者として同社の業務全般を統括していたものであり、被告人吉田邦弘(以下、「被告人吉田」という。)は、昭和五七年四月から被告会社の代表取締役の地位にあって、その業務全般を総括処理していたものであり、被告人福田稔(以下、「被告人稔」という。)は、同年四月から被告会社の取締役の地位にあって、専ら同社の経理事務を扱い、同時に被告人福田博司個人の資産管理を行っていたものであるところ、被告人博司は、自己が銀行業務として行う不動産売買の仲介業務に自ら経営する被告会社を介在させて、被告会社の利益を得ることを行い、あるいは自ら銀行業務として行う不動産売買に関連して、自己の息の掛かった不動産業者らを仲介業者等として関与させて利益を得させ、その利益の一部を分配金として自己に交付させてそれを獲得していたものであるが、

第一 被告人博司は、前記のごとくして得た被告会社の収益に関して法人税を免れ、それらほ脱分を自己の資産として蓄えることを意図し、被告人吉田、同稔はその意を受け、ここに被告人博司、同吉田、同稔の三名は、共謀の上被告会社の業務に関して法人税を免れようと企て、支払手数料を架空計上しあるいは仕入高、貸倒損失、雑損失を架空計上するなどの方法により、被告会社の所得を秘匿した上、

一 昭和五九年一〇月一日から昭和六〇年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億八二五〇万六四七円あった(別紙1修正損益計算書参照)のにかかわらず、昭和六〇年一一月三〇日、東京都千代田区神田錦町三丁目三番地所在の所轄麹町税務署において、同税務署長に対し、所得金額が三三五七万八〇五七円であり、これに対する法人税額が一三三七万五〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成元年押第一三三九号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為によより、被告会社の右事業年度における正規の法人税額七七八五万三八〇〇円と右申告税額との差額六四四八万三三〇〇円(別紙2脱税額計算書参照)を免れ

二 昭和六〇年一〇月一日から昭和六一年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三億一四五三万四八五三円であった(別紙3修正損益計算書参照)のにかかわらず、昭和六一年一二月一日、前記麹町税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一億七七〇八万八九六三円であり、これに対する法人税額が七六四七万一八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、被告会社の右事業年度における正規の法人税額一億三五二三万六五〇〇円と右申告税額との差額五八七六万四七〇〇円(別紙4脱税額計算書参照)を免れ

第二 被告人博司は、前述のごとくして得た分配金の所得に関して所得税を免れ、自己の資産として蓄えることを意図し、被告人稔はその意を受け、ここに被告人博司、同稔の両名は、共謀の上被告人博司の所得税を免れようと企て、右分配金を仮名で預金したりあるいはそれで割引債券を購入した上、被告人稔においてその預金証書を保管しあるいは第三者名義の貸金庫にその債券等を保管し、さらには、右分配金を元に海外に設立した法人の名義で海外の不動産を取得するなどの方法により、所得を秘匿した上、

一 昭和六〇年分の実際総所得金額が四億四六四八万二一四八円あった(別紙5修正損益計算書参照)のにかかわらず、右所得税の納期限である昭和六一年三月一五日までに、東京都世田谷区松原六丁目一三番一〇号所在の所轄北沢税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって不正の行為により、昭和六〇年分の源泉徴収税額を控除した正規の所得税額二億九七七五万九五〇〇円(別紙6脱税額計算書参照)を免れ

二 昭和六一年分の実際総所得金額が一〇億八六四六万二一四五円あった(別紙7修正損益計算書参照)のにかかわらず、右所得税の納期限である昭和六二年三月一六日までに、前記北沢税務署長に対し、所得税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もっと不正の行為により、昭和六一年分の源泉徴収税額を控除した正規の所得税額七億四五七四万一四〇〇円(別紙8脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実について

一 第一回公判調書中の被告人博司、被告人稔の各供述部分

一 被告人博司の検察官に対する平成元年九月二八日付、同年一〇月一五日付各供述調書

一 被告人稔の検察官に対する平成元年一〇月二八日付、同年一一月三日付(本文六〇丁綴りのもの。以下、単に丁数のみを記載する。)、同月六日付、同月七日付(二二丁)、同月八日付(二通)各供述調書

判示冒頭の事実について

一 登記官作成の登記簿謄本

判示第一の各事実について

一 第一回公判調書中の被告人吉田の供述部分

一 被告人博司の検察官に対する平成元年一〇月三日付、同月五日付、同月七日付、同月一三日付、同月一七日付各供述調書

一 被告人稔の検察官に対する平成元年九月二七日付、同年一〇月三日付、同月一五日付(三一丁)、同月一六日付各供述調書

一 被告人吉田の検察官に対する平成元年七月三一日付、同年九月二七日付、同年一〇月一六日付各供述調書

一 収税官吏作成の被告会社の支払手数料、役員賞与、事業税認定損、損金不算入役員賞与の各調査書

一 検察事務官作成の被告会社の所轄税務署の捜査報告書

判示第一の一の事実について

一 被告人博司の検察官に対する平成元年一〇月九日付供述調書二通

一 被告人稔の検察官に対する平成元年一〇月九日付、同月一〇日付各供述調書

一 被告人吉田の検察官に対する平成元年八月二日付、同年九月七日付、同月一三日付、同年一〇月七日付、同月一三日付(二一丁)各供述調書

一 岡田智の検察官に対する供述調書

一 収税官吏作成の被告会社の青果物売上、仕入高、貸倒損失、欠損金の当期控除額の各調査書

一 押収してある被告会社の昭和六〇年九月期の法人税確定申告書一袋(平成元年押第一三三九号の1)

判示第一の二の事実について

一 被告人博司の検察官に対する平成元年一〇月一二日付(二通)、同月一六日付各供述調書

一 被告人稔の検察官に対する平成元年一〇月一二日付、同月一三日付、同月一五日付(二五丁)各供述調書

一 被告人吉田の検察官に対する平成元年九月九日付、同月二八日付、同年一〇月四日付、同月一一日付、同月一三日付(五丁)各供述調書

一 収税官吏作成の被告会社の受取謝礼金、雑損失の各調査書

一 検察事務官作成の留保金額に対する税額の計算の捜査報告書

一 押収してある被告会社の昭和六一年九月期の法人税確定申告書一袋(平成元年押第一三三九号の2)

判示第二の各事実について

一 被告人博司の検察官に対する平成元年一〇月一九日付、同月二一日付(二通)、同月二二日付、同月二六日付、同年一一月一日付(一六丁)、同月二日付、同月七日付(二通)、同月八日付各供述調書

一 被告人稔の検察官に対する平成元年一一月一日付供述調書二通

一 武捨義隆、小川五郎の検察官に対する各供述調書謄本

一 収税官吏作成の被告人博司の預金利息収入、給与収入、給与所得控除額、所得控除額、源泉徴収税額の各調査書

一 検察事務官作成の被告人博司の利益分配金の金額、所轄税務署の各捜査報告書

判示第二の一の事実について

一 被告人博司の検察官に対する平成元年一〇月二七日付、同年一一月一日付(一四丁)各供述調書

一 被告人稔の検察官に対する平成元年一一月五日付供述調書

判示第二の二の事実について

一 被告人博司の検察官に対する平成元年一〇月二三日付、同月二四日付、同月二五日付、同月二九日付、同年一一月四日付(二六丁)各供述調書

一 被告人稔の検察官に対する平成元年一〇月三一日付、同年一一月三日付(一九丁)、同月七日付(八丁)各供述調書

(弁護人の主張に対する判断)

被告人稔の弁護人らは、判示第二の各事実に関し、被告人稔は、被告人博司が得た分配金を、その取得先等も知らされずに渡され、その指示に従って単に機械的に管理していたものに過ぎず、独自の判断により秘匿、管理していたものではなく、しかも、被告人稔が管理するなど関与した分配金は被告人博司が得た分配金のうちの一部であり、また、被告人稔は分配金の管理等により特別の対価や経済的利益を得ていたものではないから、被告人稔についてはその加担の態様等からして幇助犯が成立するに過ぎない旨主張する。

しかしながら、前掲の関係各証拠によれば、被告人博司の所得税ほ脱の元になった所得は、他業者からの分配金であるが、被告人博司は、それら所得については当初から税金を納める意思はなく、それを秘匿する意思を有し、その秘匿、管理を被告人稔に委ねていたものであり、被告人稔は、被告人博司が得る右所得の性質を承知し、被告人博司が納税する意思のないことや右所得を秘匿する意思であることを熟知した上、右の所得を秘匿し管理するための様々の行為を行ったのであって、それら行為を行ったのは部分的には被告人博司の指示や依頼に基づくとはいえ、その行った行為の内容は、虚偽無申告による本件ほ脱事犯の重要部分を成すものであって、自ら積極的、主体的に行っている部分もあり、しかも被告人稔は、被告会社の法人税を免れたいわゆる裏金についても、被告人博司のために秘匿、管理していたのであって、被告人稔が被告人博司のためそれらの行為を行っていたのは、同被告人が実兄であり、加えて自己も取締役の地位にある株式会社エム・エフ商会や被告会社が、被告人博司の手配でもって同人が銀行業務として行う不動産取引に関与させて貰い収益を得ていた関係にあるなど、被告人稔の生活が被告人博司の存在の上に成り立っていたためであり、被告人稔の同博司の本件所得税法違反に対する加功の程度は、到底従犯的なものではなく、共同正犯としての責任を認めるに十分なものである。よって、弁護人の前記主張は採用できない。

(法令の適用)

一 罰条

被告会社 判示第一の一、二の各事実について法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項(情状による)

被告人博司 判示第一の一、二の各行為について刑法六〇条、法人税法一五九条一項

判示第二の一、二の各行為について刑法六〇条、所得税法二三八条一項、二項(情状による)

被告人吉田 判示第一の一、二の各行為について刑法六〇条、法人税法一五九条一項

被告人稔 判示第一の一、二の各行為について刑法六〇条、法人税法一五九条一項

判示第二の一、二の各行為について刑法六五条一項、六〇条、所得税法二三八条一項

二 刑種の選択

被告人博司 判示第一の一、二の各罪について懲役刑選択

判示第二の一、二の各罪について懲役刑及び罰金刑選択

被告人吉田 判示第一の一、二の各罪について懲役刑選択

被告人稔 判示第一の一、二、同第二の一、二の各罪について懲役刑選択

三 併合罪加重

被告会社 刑法四五条前段、四八条二項

被告人博司 刑法四五条前段、懲役刑について同法四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第二の二の罪の刑に加重)、罰金刑について同法四八条二項

被告人吉田 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第一の一の罪の刑に加重)

被告人稔 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第二の二の罪の刑に加重)

四 未決勾留算入

被告人博司 刑法二一条

五 労役場留置

被告人博司 刑法一八条

六 執行猶予

被告人吉田、同稔

各刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、会社の法人税法違反と個人の所得税法違反の事案であるが、その実態は、被告人博司個人の利を図りその蓄財のため仕組まれた脱税事犯といえるものであり、その博司個人の所得税のほ脱額のみで二年分で合計一〇億四三五〇万円余に上り、それ自体個人の所得税ほ脱額としては非常な高額であり、それに二年分の法人税のほ脱額合計一億二三二四万円余も加えると、個人の蓄財のためほ脱した税額としては、脱税事犯の中でも一段と高い金額であって、ほ脱額からして本件はすでに悪質な事案といえる。そして、その動機の点を見ると、なるほど一部には、被告人博司が信託銀行の不動産営業部次長としての地位にあって、不動産取引の仲介業務に関連する銀行の利益を増やし、自己の実績を上げるには、表向きにできない出費等を個人的に負担せざるを得ず、そのために蓄財して備えていたという面が一部あったのは否定できないとしても、大部分は、私欲から個人的な財産を蓄えることを目的として脱税を行ったものであって、それは銀行業務を行う傍ら私利を図っても何ら咎められることはないとの歪んだ意識から出たものであり、動機の点において特段同情すべき余地はない。また、その経過ないし態様を見ると、まず法人税、所得税ともにその脱税の元となった所得は、前記のごとく、被告人博司が自己の銀行業務として行う仕事に被告会社を介在させることによって得た利益や、あるいは自己の息の掛かった業者を介在させてその得させた利益から分配を受けたものであり、しかも銀行の収益を図るためと称しながら土地の転売を繰り返し、その都度業者を介在させて右のごとき自己の利得の拡大を図ることさえ行っているのであって、私利私欲のため土地の転売が繰り返されるという世情いわゆる土地転がしといわれた実態の一部も見せつけており、このように本件脱税事犯の元となった所得は、自己が行う銀行業務を利用して多額の個人の利得を得るという誠に不健全な行為に基づくものであり、そのようにして得られた所得については当初から納税する意思は全くなく、脱税のため計画的にあれこれ工作をするなどしており、こうした不健全な行為により多額の所得を得ながら完全な脱税を図るような行為は、当初から計画された殊更悪質な脱税犯罪といえるばかりでなく、勤勉な国民の誠実な納税意識に動揺を与え、ひいては国家の徴税秩序を揺るがせにするおそれがあるものであり、このような点からしても本件のごとき脱税事犯は強い非難に値するものである。さらに、本件両事犯においては、脱税を図るための様々の所得秘匿行為が行われており、特にそれは所得税法違反において顕著であって、悪質な工作の伴った事犯であるといわざるを得ない。

そして、被告人博司については、本件各脱税事犯の主導者であって、それぞれほ脱した利得を自己の資産としており、加えて国税当局の査察後も罪を逃れるべく種々の手段を講じて罪証隠滅工作を行っており、本件についての責任は殊のほか重いといえる。しかし、本件の背景には、土地の転売にからんで資金融資による利子稼ぎを仲介手数料稼ぎをすることをも辞さない銀行の姿勢があり、それが私欲の実現を可能とする余地を与え、また、一部不動産取引業界に存する公私のけじめの希薄さや裏金、リベート等の不明朗な金銭のやりとりの悪慣行が、長年同業界に身を置く者の倫理感を麻痺させたという面があることも否定できず、これらの点は被告人博司のため斟酌しなければならない。被告人吉田は、被告会社が被告人博司の蓄財のため利用され、脱税工作が行われるのを知りながら、その代表取締役の地位にあって、その工作にかかわったものであり、責任は軽視できない。また、被告人稔は、被告会社及び被告人博司に関する脱税について、所得秘匿工作や脱税した利得の隠匿、管理などを進んで行い、本件各脱税事犯においては重要な役割を果たしており、その上罪証隠滅工作にも加わるなど、その責任は重いといわねばならない。

一方、被告会社においては前事業年度に遡って修正申告し、本税及び附帯税等を納付し、経営体制も刷新して再び不祥事を起こさないようにし、被告人博司については、自己の本件所得税法違反にかかる本税や附帯税等を全て納め、被告会社の右税金の納付についても大きな協力をしており、現在では本件一連の脱税犯罪、更にはそれに先行する自己の行跡についても深く反省しており、被告人吉田及び同稔についても反省の態度が見られ、被告人らのため酌むべき事情がある。

以上の各事情及びその他諸般の情状を考慮して、主文のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松浦繁 裁判官 柴田秀樹 裁判官 西田眞基)

別紙1

修正損益計算書

<省略>

別紙2

脱税額計算書

<省略>

別紙3

修正損益計算書

<省略>

別紙4

脱税額計算書

<省略>

別紙5

修正損益計算書

<省略>

別紙6

脱税額計算書

<省略>

別紙7

修正損益計算書

<省略>

別紙8

脱税額計算書

<省略>

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